健康志向や年間約1600レースも開かれている市民マラソンの増加でマラソン人気は高まっています.ランニング人口の増加に伴い,ランニングによるけがや故障も増えており,ランニングによるスポーツ障害はランニング障害として注目されています.
ランニング障害とは
ランニング障害とは過度のランニングによる使いすぎ症候群であり,疲労から過労になり,さらに病気(病的疲労)になった状態を指します.障害部位は下半身,腰や股関節,特に膝関節周辺や足などの部位が多くを占めます.
スポーツ活動の後だけに痛みがある場合は初期(1度).放置しているとスポーツ活動中にも痛みがでるようになり(2度),さらに悪化すると日常生活にも支障をきたします(3度).
ランニング障害になりやすい人
ランニング障害は比較的経験の浅いマラソン愛好家に多く見られます.
ゆっくりペースのジョギングを卒業して時速8km程度のランニングといえる速さに達して,月間走行距離が増えてくると,気付かぬうちにランニング障害をおこしているというケースが増えています.
関節や筋肉への負荷のかけ過ぎが原因で,自己流の練習メニューや音楽を聴きながら走ることによる注意力の低下で引き起こされることもあります.体と会話しながら無理のない練習をすることが必要です.
ランニング障害の原因
ランニング障害の主な原因
- O脚,偏平足など,体形からくる素因(内的因子)
- コンディショニング不良
- ランニングフォーム
- ランニングシューズ等のツール
- 練習内容,練習環境
ランニング障害になりやすい素因(内的因子)
年齢,性差,体型,O脚,肥満など,ランニング障害になりやすい素因は取り除くことができませんが,理解しておくことが,ランニング障害を予防することになります.最低限,スムースな体重移動を可能とする,十分な筋力が,必要となります.
年齢
30代後半以降の中高年者が,ランニング障害になりやすく,老化現象で筋肉や腱が硬くなっており,椎間板や関節軟骨の弾力も失われているので,腰痛,膝痛の頻度が増加します.
性別
骨盤が広い女性では,より外側から着地するので,足が一瞬内側に倒れこむオーバープロネーションにより,足の障害が多く見られます.男性は筋力があり,膝や股関節等,大きな関節に負荷がかかります.
体型
O脚では膝の内側に負担が集中し,膝の半月板や軟骨を痛めやすいといえます.
肥満傾向の方は,体重の何倍もの重力が腰,膝にかかるため,腰椎椎間板ヘルニアや変形性関節症に注意する必要があります.
ランニング障害を起こす要因(外的因子)
一方,ランニングフォームや練習量,ランニングシューズの適切な選択はランニング障害を予防する上で大事な鍵となります.
ランニングフォーム
早く走ろうとすると男性はストライ(ドいわゆる歩幅)を広げ,女性はピッチ(回転数)を増やして走る傾向が認められます.
30代前半までの男性ランナーでは,ストライド走法のランナーで,股関節や大腿部の肉離れ,ランナー膝になる方が増えています.
一方,ピッチ走法の女性選手では膝から下,下腿骨の疲労骨折(シンスプリント)や足底腱膜炎になる傾向があります.
着地方法には足全体で着地するフラット走法,踵から着地するヒールストライク走法,つま先で走るフォアフット走法等があり,それぞれの走り方に長所,短所があります.ランニング障害をおこしたらまず,着地方法を検討してみるのもひとつの手段と思われます.
練習量
走行距離やスピードが増加してくると,体の各部分の負担が徐々に増してきます.痛みが出てきたら練習内容を調節して,無理のない練習メニューを計画的に立てることをお勧めしています.
ランニングコース
道路は路肩に向かい傾いているので,長距離によるランニング障害を予防するためには,道路の同じ側を走るのを避ける.
ランニングシューズ
足の機能をおぎなう,ランニングシューズを選ぶことも障害予防のポイントになります.選択にあたっては足の形に合った,底が厚めでクッション性のいい靴で,踵のしっかりしたものを選ぶことです.
ランニング障害の治療
まず,障害部位と原因を特定することが必要です.診察だけで,わかる場合も多いのですが,疲労骨折の初期などはレントゲンだけではわからないことも多く, 稲毛整形外科ではMRIや超音波検査を用いて早期診断を行っています.
画像診断を併用することで,患者さんもドクターストップの理由をご理解いただいて,しっかりとランニング制限や,リハビリ治療に専念していただいています.
病気は患者さん自身が治すもので,最短でスポーツに復帰できるよう,お手伝いしております.
ランニングフォームやO脚や偏平足などのランニング障害に対して,フォームの指導やテーピング,インソールの処方で対応しています.
疲労骨折や半月板損傷,変形性関節症などは,ランニングを休止しても,日常生活にも支障となることが多く,スポーツドクターのいる整形外科を受診して治療する必要があります.
ランニング障害の予防
2002年に日本臨床スポーツ医学会が発表した骨・関節ランニング障害に対しての提言によると,
ランニング障害は走行距離が長くなるほど高率に発生するため,1日の走行距離を制限しなさい.
ということで,1日の走行距離は
中学生:5 ~ 10 km(月間200 km)
高校生:15 km(月間400 km)
大学・実業団:30 km(月間700 km) が推奨されています.
月間走行距離は200kmまで
中高年ランナーでは加齢による運動器の退行変性(いわゆる老化現象)が存在し,腰痛,膝痛が出やすいので,月間走行距離を200km以内にとどめることとされています.
その他の注意点
ウォーミングアップとクールダウン
十分なストレッチが必要.長距離のランニング後は十分な休養をとる.
栄養管理
食後すぐに走らない.十分な水分,ミネラル補給.カーボローディング
ランニングシューズ
ランニングシューズは車のタイヤと同様磨り減っていくもので,走行距離500 km をめどに設計されています.
普段から磨耗の補修は早めにし,磨り減った靴を履き続けないことが大事です.
ランニング障害リンク
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