一昔前の話.”投手は肩を冷やすな.試合中に水を飲むな.”という時代でした.80年代からスポーツが科学的に研究され,水分補給の重要性が叫ばれ,今では当たり前の事になっています.スポーツ栄養学の分野でも研究が進み,パワーアップ,持久力アップ,試合前の食事の取り方など,競技力向上のための,さまざまな提案がなされ,成果をあげています.
スポーツ栄養学は,アスリートや身体活動をする人々が最大限のパフォーマンスを発揮するために,食事や栄養摂取の戦略を構築する学問です.具体的には,運動の種類や強度,年齢,体格,性別などを考慮して,各個人に最適な栄養計画を設計することを目指しています.
主なポイント
- エネルギー供給: 運動前,中,後に必要な栄養素(炭水化物,たんぱく質,脂質)のタイミングと量を考える.
- リカバリーの強化: 疲労回復に役立つ栄養摂取(例:運動後の糖質補給や抗酸化物質).
- 体の構成要素を維持: 骨の健康や筋肉成長を支えるカルシウムやビタミンD.
スポーツ栄養士や関連資格を取得すると,プロのアスリートから一般の健康維持を目指す人々まで,幅広いサポートが可能になります.
パワーアップ
運動時に使う筋肉はタンパク質からできています.運動刺激が加わると骨格筋のタンパク質が分解されますが,超回復という現象で筋肥大が見られます.これにあわせて効果的にたんぱく質を補給することで,筋量の増大,パワーアップが期待できます.
タンパク質の合成に必要な20種類のアミノ酸のうち,体内で合成できないものが8種類あり,これらは食事から摂らなくてはいけません.パワーアップ,筋力の増大にはトレーニングとたんぱく質の摂取の両方が必要です.
持久力アップ
筋肉の動力源は,グルコース(ブドウ糖)から作られたATP(リン酸が3つ)からリン酸を一つ切り離してニリン酸に変わるときに出るエネルギーです.持久力向上のカギは,このATPを作る材料になるグリコーゲンが体内にたっぷりあることです.グリコーゲンの材料になるのが,ごはんやうどん,スパゲティなどの穀類を主成分とした食品に多く含まれている糖質です.
持久力アップのための栄養摂取方法は,主食の穀類をしっかり食べることです.体内のグリコーゲン積載量(車にたとえるとガソリンタンクの容量)には限りがあり,1時間以上の強い運動ではガス欠になることが多くなります.持久力アップのポイントはいかにグリコーゲンを節約し,エネルギーを供給できるか,ということです.グリコーゲンが枯渇すると脂質(体脂肪)が分解されて,エネルギーを供給し続けます.ところが体脂肪が分解されるのは有酸素運動時であり,競技として個人の限界に挑めフルマラソンなどでは無酸素運動に近い,筋肉の使われ方をしてしまいます.
競技力向上のために,考えられたのが最大酸素運搬能を増やす事.すなわち,高地トレーニングなどでヘモグロビン(赤血球)の量を増やすこと(車にたとえるならターボまたはスーパーチャージャーでしょうか)と,グリコーゲン積載量(ガソリンタンクの容量)をふやすこと,カーボローディングです.
カーボローディング(グリコーゲン・ローディング)
陸上界のスーパーヒロイン福士加代子(ワコール)も失速.(大阪国際女子マラソン1月27日・大阪長居陸上競技場) あらためて,35kmの壁という言葉を思い出します.
日本の一流陸上チームですから,高地トレーニング(少し短かったけど)カーボローディングなどのコンディショニングなどは完璧だったはずですが,脱水・栄養補給に対する認識が足りなかったかなと感じています.もちろん1番は準備期間が短かく,40km走をこなしていなかったことですけど.
マラソン競技自体がリッター9kmで走る車が燃料を4リットルしかつめなくて,どうやって残りの7kmをどこでエコランするか見たいなところがあり,どうしても駆け引き(競技者同士に加え,自分の体とも)が必要なのかもしれません.
カーボローディングはいつもは4リットルのガソリンしか積めない車に5リットル詰め込むテクニックで、エネルギー源であるグリコーゲンを体内に蓄積させるための食事法です。特に持久力を必要とする運動や競技(例えばマラソンやトライアスロンなど)で効果的とされています.
基本的な流れ:
- 試合の1週間前:
- トレーニングを減らしつつ,通常の食事(糖質エネルギー比約50~60%)を摂取.
- グリコーゲンの基礎蓄積を維持.
- 試合3日前~前日:
- 高糖質食(糖質エネルギー比70~80%)に切り替え,脂質を減らす.
- 主食(米,パン,パスタ,もちなど)を中心に糖質を摂取し,グリコーゲン量を高めます.
- 試合当日:
- 試合開始の3~4時間前までに軽い食事(おにぎりやパンなど)を済ませます.
- 胃腸の負担を避けるため,脂肪分や繊維質の少ない食事を選ぶのがおすすめです.
メリット:
- 筋肉や肝臓にグリコーゲンが通常の2~3倍蓄積されることで,エネルギー持続時間が延びます.
- 試合終盤のスタミナ切れを防ぐサポートになります.
注意点:
糖質の摂取が急に増えると体重が増えることがあるため,体重制限がある競技では慎重な計画が必要です.