膝関節症に対するMSC投与は有効か|再生医療

 再生医療のキーとなる幹細胞 は他の細胞に分化する能力を持ち、組織の修復や再生に重要です。
幹細胞(Stem Cells)は必要に応じて特定の役割を持つ細胞、例えば神経細胞や筋肉細胞、血液細胞などに分化できる多分化能をもっています。幹細胞は未分化の状態で、どんな細胞にもなれる可能性があります。さらに 自らと同じ性質を持つ新たな幹細胞を生み出す自己複製能を備えており、この性質のおかげで、幹細胞は長期間にわたり体内で必要な細胞を供給できます。例として、iPS細胞や間葉系幹細胞があります。

 膝関節症に対する間葉系幹細胞(MSC)の投与には、多くの期待が寄せられています。特に変形性膝関節症(Knee OA)において、以下のような利点や有効性が報告されています:

  1. 軟骨修復効果 MSCは軟骨や靭帯などの組織に分化し、変性した関節を修復する可能性があります。
  2. 炎症の軽減 炎症性サイトカイン(IL-1βなど)を抑制し、抗炎症サイトカイン(IL-10)の分泌を促進するため、膝の痛みを和らげる効果が期待されています。
  3. 低侵襲の治療法 MSC治療は麻酔や入院を必要とせず、比較的安全で患者負担の少ない選択肢となっています。
  4. 治療プロセス 自家脂肪由来MSCは、脂肪組織から採取された幹細胞を培養し、増殖させた後に患部に注射する方法がよく用いられます。

一方で、有効性や持続性には個人差があること、また一部の重度患者には効果が限定的な場合もあるとの課題も挙げられています。さらに、治療の安全性を確保するために、事前の検査や定期的な経過観察が必要です。

MSC投与と他の再生医療との比較

 間葉系幹細胞(MSC)の投与は、再生医療の中でも注目されている方法ですが、他の治療法と比較することで、その特性や適用範囲をより深く理解できます。以下に主な治療法との比較を示します:

1. MSC投与

  • メリット:
    • 自己細胞を利用する場合、拒絶反応が少ない。
    • 骨や軟骨の再生、炎症抑制、免疫調整作用に優れている。
    • 患者の体から簡便に細胞採取が可能。
  • デメリット:
    • 効果には個人差がある。
    • 長期的な安全性と効果については研究が進行中。

2. iPS細胞を用いた治療

  • メリット:
    • 多能性があり、ほぼ全ての細胞に分化可能。
    • 幅広い疾患に適用可能。
  • デメリット:
    • 腫瘍形成リスクや高コストが課題。
    • 細胞作製過程での倫理的懸念がある。

3. ES細胞を用いた治療

  • メリット:
    • iPS細胞同様、多能性を有する。
  • デメリット:
    • 倫理的問題が強調される。
    • 拒絶反応のリスクが存在。

4. PRP療法(多血小板血漿)

  • メリット:
    • 患者自身の血液を利用するため安全性が高い。
    • 軟部組織や腱の再生を促進。
  • デメリット:
    • 効果が限られ、疾患によっては十分な結果が得られない。

5. 幹細胞を使わない再生治療

  • : バイオマテリアルを使った治療。
  • メリット:
    • 生物材料を使用するため腫瘍形成リスクがない。
  • デメリット:
    • 生体適応性や再生能力が幹細胞療法と比べて限定的。

 MSC投与は炎症軽減や免疫調整、再生能力に優れている一方で、他の治療法と組み合わせたり、選択する疾患に応じた最適な方法を選ぶことが重要です。

幹細胞治療の問題点

幹細胞治療で変形性膝関節症などで軟骨を修復するのに効果的とされるが軟骨細胞を関節内投与しただけで軟骨ができるのかは疑問です。

幹細胞治療が軟骨修復に使われる場合、注射だけで軟骨が完全に再生するわけではなく、多くの研究では以下のようなプロセスが必要とされています:

  1. 環境の整備: 幹細胞が軟骨細胞に分化するためには適切な「微小環境」が必要です。注入後、幹細胞が損傷部位に留まり、分化を促す成長因子やサイトカインの影響を受けることが重要です。
  2. リハビリテーション: 関節内に適度なメカニカルストレス(例えば、運動やリハビリを通じた負荷)を与えることで、軟骨再生を促進する効果が期待されます。このため、治療後の適切なリハビリは非常に大切です。
  3. 治療の複数回実施: 1回の治療だけで十分な結果を得ることは稀であり、幹細胞の注入を複数回繰り返すことで、効果が徐々に蓄積されるとされています。

研究によれば、幹細胞治療は軟骨の完全な再生を目指すというより、関節の炎症を抑えたり、軟骨の進行的な損傷を防ぐために有用であるとされています。ただし、完全な再生を期待する場合、まだ実験段階にある技術が多いため、長期的な研究が必要です。

このようなプロセスが必要になるため、軟骨修復の効果に対する慎重な評価と、医師との密な相談が重要です。治療費も数十万から百万円単位なので費用対効果を見極める必要があります。

幹細胞治療の費用は、治療法や使用する幹細胞の種類によって異なります。一例として以下の内容があります:

  • 自己脂肪由来幹細胞治療:
    • 片膝への投与: 約94万8,000円(税込)。
    • 両膝同時施行: 約140万8,000円(税込)。
  • 治療法により変わる範囲:
    • 簡易的な幹細胞利用治療: 約数十万円。
    • 高度な培養・増殖を伴う治療: 数百万円から1,000万円以上に及ぶ場合も。
  • 保険適用の有無: 一部の特殊な血液疾患などに対して保険適用の治療が存在しますが、整形外科領域の幹細胞治療は多くの場合自由診療となり、全額自己負担になります。

治療費用はクリニックや地域によっても大きく異なるため、複数の医療機関で相談するのが賢明です。

膝タナ障害(滑膜ひだ障害)

滑膜ひだインピンジメントシリーズの最後(おそらく)は膝関節の棚障害について説明します。

膝タナ障害(滑膜ひだ障害)は、膝関節内に存在する滑膜ひだが炎症を起こして肥厚し、関節運動中に挟まれることで痛みや違和感を引き起こす状態です。特に膝の曲げ伸ばしが多い運動やスポーツに起因することが多いです。

主な原因:

  • 繰り返しの動作: 膝の屈曲や伸展を頻繁に行うことで、滑膜ひだが摩擦を受けやすくなります。
  • 外傷: 転倒や膝への強い衝撃が滑膜ひだに負荷をかけ、炎症を引き起こすことがあります。
  • スポーツ活動: サッカーやバスケットボールなど、カッティング動作が多い種目で、膝を酷使する競技で発症する頻度が高いです。

主な特徴

  • 症状: 膝の引っかかり感、ポキポキ音、膝のお皿周囲の痛みなどが見られます。お皿の内上方にクリックを触知し痛みがあればほぼ確定です。
  • 原因: 繰り返しの膝の屈曲伸展やひねり動作、外傷による刺激が主な原因です。炎症が続くとひだが肥大化し、膝蓋骨や大腿骨と接触して障害を悪化させることがあります。
  • 診断: MRIや関節鏡による検査が有効で、滑膜ひだの状態を詳細に確認します。関節鏡で膝蓋骨の上を除くと滑膜ひだが棚のように張り出しており、緊張が強いとしつがいこつと大腿骨の間で挟まるのを直接観察できます。

治療法

  • 保存療法: アイシング、ストレッチ、物理療法(超音波や温熱)を通じて炎症を抑制します。
  • 手術療法: 保存療法で改善が見られない場合、関節鏡下での滑膜ひだ切除が検討されます

膝棚障害は早期の診断と適切な治療によって回復が期待できるため、膝に違和感を感じた際は専門医への相談が重要です。

足関節の滑膜ひだ障害

滑膜ひだは関節であればどの関節にも存在します。一番有名なのは膝関節の棚障害。意外に説明されてない足関節の滑膜ひだ障害について説明します。

足関節の滑膜ひだ障害とは、関節内にある滑膜ひだ(関節メニスコイド)が関節運動中に挟まれたり摩擦を受けて、炎症や痛みを引き起こす状態です。この障害は特に捻挫や繰り返される足首の負荷が原因で発生することがあります。

主な特徴:

  • 原因: 関節の使いすぎ、繰り返しの負荷や怪我(特に足関節捻挫)による摩擦・圧迫。
  • 症状: 足首の痛みや腫れ、運動時の違和感や引っかかる感じ、関節の動きが制限されることがあります。
  • 診断: MRIや超音波検査で滑膜ひだの肥大や炎症が確認されることがあります。

治療法:

  1. 保存療法: アイシングやNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)の使用、休養が中心。
  2. リハビリ: 足関節周辺の筋肉をストレッチや強化することで負担を軽減。
  3. 手術療法: 保存療法で改善が見られない場合、関節鏡視下で肥厚した滑膜ひだを切除することも検討されます。

足関節の健康は運動機能に大きな影響を与えるため、早めの診断と適切な治療が重要です

足関節メニスコイド

足関節におけるメニスコイドとは、関節包の滑膜の一部が関節内に突出し、ひだ状の構造を形成しているものを指します。この滑膜のひだは「関節メニスコイド」とも呼ばれ、内部に自由神経終末が含まれているため、痛覚感受性を持つと考えられています。これが炎症や摩擦によって刺激を受けると、痛みや可動域の制限を引き起こす可能性があります。

特に、足関節捻挫や関節の繰り返し動作による負荷が原因で、メニスコイドが関節内で挟まれたり圧迫されたりすることで症状が発生することがあるんです。この状態が続くと、滑膜炎や軟部組織のトラブルにつながる場合もあります。

卓球肘(滑膜ひだ障害)

福原愛選手の右肘に関する病気は「滑膜ひだ障害 (右肘棚障害)」と診断されたことがあります。関節内の滑膜ひだが炎症を起こして肥大し、痛みや違和感を感じる状態です。これにより、滑膜ひだが関節内で挟まれ、症状を悪化させていました。

彼女は症状を改善するために手術を受け、炎症を起こしたひだを除去した後、リハビリに専念して回復したことが報告されています。その滑膜ひだ障害について説明します。

滑膜ひだ障害 (肘棚障害)

滑膜ひだ障害(肘棚障害)は、肘の関節内にある滑膜ひだが炎症を起こして肥大化し、関節内で挟み込まれることで痛みや違和感を引き起こす状態です。

主な特徴

  • 原因: 肘の滑膜ひだが繰り返し摩擦や負荷を受けることで、炎症が生じます。
  • 症状: 関節の動作時に痛みや引っかかり感を伴い、肘を伸ばす際に違和感が出る場合があります。
  • 診断方法: MRI検査や関節内視鏡で滑膜ひだの状態を確認するのが一般的です。
  • 治療法: 保存療法(休養、ストレッチ、薬物治療など)や、必要に応じて鏡視下での滑膜ひだ切除手術が選択されます。

適切な治療とケアによって症状が改善するケースが多いので、専門医に相談することをおすすめします。

滑膜ひだは関節であればどの関節にも存在します。一番有名なのは膝関節の棚障害。意外に説明されてない足関節の滑膜ひだ障害について次回説明します。