膝前十字靭帯損傷

膝前十字靭帯完全断裂では自然治癒することはなく,前十字靱帯再建術が必要になることが多い

膝前十字靭帯は膝を内側に捻ったり,人との衝突で断裂します.急性期を過ぎると膝の痛みや腫れもおさまりスポーツも可能となりますが,階段の下りや方向転換の際に膝が抜ける膝崩れ症状が続きます.
膝前十字靭帯損傷が単独で発生しても,1年以内に90%の膝で半月板損傷が合併するといわれており,MRIによる確実な診断と受傷直後からの早期リハビリテーションが,膝関節の二次損傷を防ぎ,将来の変形性関節症をさける第一歩となります.

膝前十字靭帯損傷の症状

膝前十字靭帯は膝を内側に捻ったり,人との衝突で断裂します.受傷直後から,膝に力が入らなくなり,歩行不能となり,数時間で膝が曲げられなくなってきます.膝の関節内が血液で充満するためで,膝を曲げようとするとお皿の上側や膝の裏側に強い痛みや圧迫感があります.
前十字靱帯には痛みを感じる神経はないので,前十字靭帯損傷で直接痛みを感じることはないものの,膝前面から内側にかけての放散痛や合併した半月板損傷や内側側副靭帯損傷による痛みが続きます.
急性期を過ぎて2,3週もすると膝の痛みや腫れもおさまり,スポーツも可能となりますが,膝くずれといって,歩行中にカクンと抜けたり,方向転換の際に膝が抜ける症状が続きます.階段の下りで膝がはずれそうな恐怖感がある場合は要注意です.
膝前十字靭帯損傷による膝くずれを放置していると,1年以内に90%の膝で半月板損傷が合併するといわれており,受傷早期の診断とリハビリが,二次損傷を防ぐ第一歩となります.

膝前十字靭帯損傷の原因と病態

膝関節には前後方向の安定性を得るために,前十字靭帯と後十字靭帯があり,協調して膝のスムーズな動きをコントロールしています.その十字靭帯に大きな力が加わり,断裂したり伸張したりしてゆるみと痛みを生じます.
前十字靭帯は競技中に他の人と交錯したり,ラグビ-のタックルによる直接の外力で断裂する他,バスケットやサッカーでの切り返し,スキーで内エッジが引っかかっての転倒など,膝に外反力が加わって,膝が内側に入って捻るために受傷するケースや,ジャンプ後の着地時に大腿四頭筋が急激に収縮して損傷する場合があります.典型的な受傷時の膝は,つま先が外側を向いて踏ん張っているときに,膝が内側に入った状態で,捻ったりぶつけたりして前十字靭帯損傷がおこります.
一方,後十字靭帯損傷はラグビーやサッカーで膝から落ちたときのように,膝を曲げてお皿(膝蓋骨)の下を強打することにより損傷します.

膝前十字靭帯損傷が治りにくい理由

膝前十字靭帯は.関節内靭帯といって関節液で満たされた関節腔という空間にあるため,血流に乏しく,関節内にある軟骨や半月板と同じく,非常に治りにくい組織です.内視鏡で切れた前十字靱帯損傷をみるともモップの先のように線維がばらばらになっていて(mop-end tear)自然治癒は期待できません.(上図参照)

膝前十字靭帯損傷の診断と治療

膝前十字靭帯損傷 MRI診断

前述のごとく膝前十字靭帯完全断裂ではスポーツを続ける場合や,日常生活で頻繁に膝崩れを起こすケースでは手術が必要になることが多く,完全断裂か部分断裂か.半月板や軟骨の合併損傷はないのか等,MRI検査による正確な診断が必要です.
受傷直後は副木(なければ週刊誌や新聞紙を厚めに巻く)で膝を固定し,アイシング等の応急処置(RICE)を行い,スポーツ整形外科を受診してください.
多くの例で膝の中に血がたまっている(関節血症)ので,関節に針を刺して血液を排液します.排液後も断裂部の出血は続きますが,日々出血量は減っていくので通常毎日抜く必要はなく,膝を曲げ伸ばしできる程度に圧迫します.
ギプスなどの固定は関節が硬くなるので痛みの強い場合以外は前十字靭帯損傷にあわせたテーピングを行い,筋力低下を予防し,可動域訓練を行います.
この間にMRI検査で前十字靭帯が完全断裂か部分断裂か,合併損傷の有無を判定し.手術療法を行うか,保存療法を行うかを決定します.
前十字靭帯完全断裂で手術を行う場合でも,膝の可動域や筋力が完全に戻っていない受傷後1ヶ月以内の前十字靭帯再建術では膝関節拘縮の合併症をおこす事があり,超急性期の手術以外はまず膝の機能を一旦回復させる必要があり,早期スポーツ復帰には受傷直後からの早期リハビリテーションが重要です.

膝前十字靭帯損傷|診療日記

日々の診療から診療日記で膝前十字靭帯損傷の症例について紹介しています.