膝後十字靭帯は,歩行中転倒し,すねをぶつけて靭帯損傷を起こす場合がもっとも多く,急性期でも3度の完全断裂以外では膝の痛みや腫れは少なく,本人の自覚症状も少ない場合があります.膝の不安定感だけでなく,起立時や,階段下りでの膝痛の原因となります.
膝後十字靭帯損傷の症状
膝後十字靱帯損傷は膝下を強打することで受傷します.前十字靭帯損傷に比べ,受傷直後でも3度の完全断裂以外では膝の痛みや腫れは少なく,本人の自覚症状も少ない場合があります.膝後十字靱帯が断裂すると膝がぐらぐらする,不安定感だけでなく,起立時や,階段下りでの膝痛の原因となります.
膝後十字靱帯にも痛みを感じる神経はないので,後十字靱帯損傷で直接痛みを感じることはないものの,膝後面から外側にかけての放散痛や合併した半月板損傷や内側側副靭帯損傷による痛みが続きます.
急性期を過ぎて2,3週もすると膝の痛みや腫れもおさまり,スポーツも可能となりますが,ダッシュの際にカクンと抜けたり,ジャンプの着地の際に力が入らないなどの症状が続きます.
膝後十字靭帯損傷の原因と病態
膝関節には前後方向の安定性を得るために,後十字靭帯と後十字靭帯があり,協調して膝のスムーズな動きをコントロールしています.その十字靭帯に大きな力が加わり,断裂したり伸張したりしてゆるみと痛みを生じます.
後十字靭帯は競技中に他の人と交錯したり,ラグビ-のタックルによる直接の外力で断裂する他,日常的に転倒して膝下をぶつけて受傷するケースが珍しくありません.
膝後十字靭帯は,後方の関節包と供に膝関節が屈曲伸展をする際の蝶番の支点の役割も担っています.後十字靭帯が断裂すると,後方の関節包が引き伸ばされることで痛みを生じ,特に階段下りでの膝の痛みや動き始めの痛みが続きます.3度の後十字靭帯損傷(完全断裂)では膝の後方不安定性が顕著となり,ダッシュやジャンプの際に膝がずれる感覚がスポーツ活動の障害となります.
膝後十字靭帯損傷の診断と治療
膝後十字靭帯損傷の診断は問診と触診(理学所見)で十分可能ですが,脛骨(下腿骨)の後十字靭帯付着部の剥離骨折(特に若年者)も同様の症状を呈するので,レントゲン検査は必須となります.靭帯損傷の程度および合併損傷(半月板損傷や軟骨損傷)の有無がその後の経過に影響するのでMRI検査も必須となります.
膝後十字靭帯損傷の治療は保存療法が原則です.靭帯損傷の程度により異なりますが,ギプスなどの固定は,関節が硬くなるので痛みの強い場合以外は後方不安定性を抑制するPCL用テーピングを行い,受傷後早期より筋力低下を予防し,可動域訓練を行います.
軽症例(3度の完全断裂以外)では保存療法を行います.早期からの可動域および筋力低下を防ぐリハビリテーションに加え,後方動揺性の強い場合は,支柱付きサポーターなどの着用も考慮します.
後十字靭帯完全断裂で手術を行う場合でも,膝の可動域や筋力が完全に戻っていない受傷後1ヶ月以内の後十字靭帯再建術では膝関節拘縮の合併症をおこす事があり,超急性期の手術以外はまず膝の機能を一旦回復させる必要があり,早期スポーツ復帰には受傷直後からの早期リハビリテーションが重要です