腰椎圧迫骨折

腰椎圧迫骨折は,ぎっくり腰と同様,外傷により起こります.軽微な外傷でも腰椎圧迫骨折を起こすことがあり,ぎっくり腰として骨折の診断なく治療されたり,整形外科を受診しても初期のレントゲン画像では見逃されることもあり,痛みが続く場合は注意が必要です.後遺症として腰痛や下肢の遅発性麻痺が残ることもあり,初期治療が大切です.

圧迫骨折とは

骨折というと枯れ枝が折れるように,ぽっきりと折れるのを思い浮かべると思いますが,骨折にはいろいろな形があります.圧迫骨折は,背骨(脊椎)に垂直方向の力が加わることで起こします.ケーキの入った箱を上からつぶすと変形することを想像してもらうとわかりやすいと思います.スポンジ(海綿骨)まで潰れると外側の変形を戻しても,安静期間が短いと重力で再び潰れてきます

腰椎圧迫骨折の症状

 

腰椎圧迫骨折 受傷直後 軽度の腰椎圧迫骨折における症状は,外傷を契機として出現した腰痛だけです.すぐ後ろにある脊髄神経を圧迫するほどの骨折でなければ,足のしびれや痛みはありません.
右の写真は,スポーツで殿部から落下し,腰痛をきたした方の受傷当日の腰椎レントゲン側面像です.レントゲン上は特に変形も認めませんが,受傷機転と診察時の所見から,診断は腰椎圧迫骨折です.
確定診断はMRI診断により行います,
圧迫骨折した椎体は,出血により,他の腰椎と違う濃度で描出されるため,新旧の判別が可能となり,多発骨折の場合の安静度の指示に欠かせない検査です.
圧迫骨折の程度に加え,後方にある脊髄神経への圧迫の有無がわかります.特に,脊髄神経に接している椎体後壁の骨折の有無で,治療法が変わってくるので,MRI検査は必須です.

腰椎圧迫骨折の治療

腰椎圧迫骨折の治療は他の骨折と同様,転位がなく足のしびれなどの神経症状がなければ,安静による保存療法が基本となります.脊髄神経に近い椎体の後ろ側が折れていれば陥没して骨片が神経に刺さったり,圧迫したりして,下肢麻痺を起こすこともあるため,手術が必要になることもあります.
この方の場合は椎体後壁の骨折はなく,足のしびれや麻痺もないため,体幹ギプスおよび腰椎軟性コルセットを用いて治療しました.(腰椎圧迫骨折の保存療法)
腰椎圧迫骨折 1ヵ月後 しかし,1人暮らしで安静が守れず,1週間後から潰れはじめ,1ヵ月後には椎体の高さが2/3ほどに潰れてしまいました.診察のつど安静を指示していましたが,骨が固まるまで2ヶ月はかかるので,なかなか受傷時のまま治すことはできませんが,変形を最小限に抑え,後遺症も残さず治癒しました.
椎体が潰れないように治すには1ヶ月以上入院してベッド上で安静臥床(排泄も)をとり,垂直方向の力をかけないようにするしかありません.
脊髄神経に隣接する椎体の後縁が骨折していると,このような保存療法は選択できず,数カ月してから脊髄を圧迫して,腰部脊柱管狭窄症による遅発性麻痺を起こすことがあります.

急性腰痛診療のレッドフラッグ

ぎっくり腰(急性腰痛症)の中で整形外科を受診しなくてはならない目安として腰痛診療のレッドフラッグが,参考になります.

腰椎圧迫骨折対するセメント注入療法

わかりやすくセメント注入療法と紹介しましたが,正式にはバルーン椎体形成術(BKP)といい,背骨がつぶれてしまったいわゆる腰椎圧迫骨折にバルーンを用いて骨セメントを注入し,固まらせることで痛みを改善させる手術で,手術直後より痛みがなくなるというもの.今まで行われていたセメント注入療法よりバルーンを用いることで,椎体圧潰を正常に回復し,非常に粘度の高いセメントを挿入するために,血管内への漏出が非常に少なくなり,安全性が高められ,平成23年1月より健康保険が使えるようになりました.