テニス肘とは
テニス肘(正式名称:上腕骨外側上顆炎)は、肘の外側の腱や筋肉に炎症が生じる疾患です。テニスのバックハンド動作が原因でよく見られるため「テニス肘」と呼ばれますが、テニスをしていない方でも、日常生活や仕事で肘を酷使することで発症することがあります。
テニス肘の原因は、テニスやゴルフなどのスポーツだけではありません。肘を頻繁に曲げ伸ばしするような仕事や家事、パソコンやスマホの長時間使用など、肘や手首に負担をかけることが原因となります。

テニス肘の症状
テニス肘の症状は、以下のようなものがあります。
- 肘の外側に痛みや圧迫感がある
- 肘を曲げたり伸ばしたりすると痛みが増す
- 手首や指を動かすと痛みが出る
- 手に力が入らない
- 物を持ったり握ったりすると痛みが出る
テニス肘の原因と病態
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の主な原因は、肘や手首に過剰な負荷がかかることによる腱や筋肉の炎症です。以下の具体例をご覧ください:
- スポーツの動作: テニスやゴルフ、バドミントンなどのラケットを使用するスポーツでは、手首を反らせたりひねったりする動作が負担を増やします。
- 仕事の影響: 職人や美容師、またはデスクワーカーが長時間パソコンを使用する場合もリスクが高まります。
- 日常生活の負荷: 重いものを持ち上げたり、タオルを絞る動作などがきっかけになることがあります。
さらに、加齢により腱や筋力の衰えが進むと、リスクが高まる傾向にあることも指摘されています。加齢はテニス肘(上腕骨外側上顆炎)の発症リスクを高める重要な要因とされています。年を重ねるにつれて、腱や筋肉の水分量が減少し、柔軟性や弾力性が低下します。その結果、腱が摩耗しやすくなり、炎症や痛みを引き起こす可能性が高まります。特に40代以降では、手首や指を使う動作が負担をかけ、痛みが現れるケースが増える傾向があります。
日常生活やスポーツで負担をかけ続けると、こうした加齢による腱の弱化と合わさって、テニス肘を引き起こすリスクが増加します。予防には適度なストレッチや筋力トレーニングが役立ちます。
病態
テニス肘の病態は、腱に微細な断裂が生じて炎症が起こり、その結果として血管や神経が刺激されて痛みが発生すると考えられています。テニス肘は自然に治ることもありますが、放置すると慢性化したり、肘の可動域が制限されたりする可能性があります。
テニス肘が長期化する原因には、いくつかの要因があります。以下に、その具体的な例を挙げてみます:
1. 適切な休養の欠如
症状が出ているにも関わらず無理に活動を続けると、炎症が悪化して治癒が遅れます。特にスポーツや仕事で肘を頻繁に使う方に多いです。
2. 不適切な治療
- 痛みを一時的に和らげる方法に頼りすぎ(湿布や痛み止めだけなど)、根本的な原因が解決されない場合。
- 適切なリハビリが行われず、筋力低下や関節の硬化が進むこと。
3. 身体の使い方の問題
- スポーツや日常動作で、負担のかかるフォームを繰り返している。
- 不良姿勢や過剰な負荷が、症状の慢性化を招く。
4. 慢性的な炎症
放置することで腱に微小な損傷が積み重なり、慢性化するケースが多いです。
5. 加齢による要因
年齢とともに腱や筋肉が弱くなり、回復力が低下することで治癒が長引く傾向があります。
解決策
- 負担の少ないフォームへの改善や適度な休養。
- 専門医の指導のもとでのリハビリや治療(衝撃波治療、PRP療法など)。
- 日常生活の中で肘に負担をかけない工夫も重要です。
テニス肘の診断と治療
保存療法:
テニス肘の治療は、保存療法が原則です。
リハビリテーション:ストレッチや筋力トレーニングで腱を強化。
安静:痛みがある場合、患部を休ませることが最重要。
薬物療法:非ステロイド性抗炎症薬や湿布。
物理療法:サポーターやテニス肘バンドの使用。
注射療法:
ステロイド注射: 痛みと炎症を抑えるため、局所に直接注射する方法。
ヒアルロン酸注射: 滑膜の動きを改善する目的で使用。
ただしステロイドの局所腱内注射が腱を脆弱化させる可能性については、注意が必要です。短期的な炎症や痛みの軽減効果は期待できますが、繰り返し施行されると腱やその周辺組織に長期的な影響を与える場合があります。具体的には:
- 腱の脆弱化:ステロイドが腱のコラーゲン分解を促進し、弾力性を低下させる可能性があります。
- 局所感染:特定部位への反復注射による蓄積が、腱断裂や局所感染のリスクを高めることがあります。
- 注射回数制限:一般的には同部位への注射を2~3回までとし、繰り返しを避けるよう推奨されています。
- 副作用としての腱断裂:ケナコルト(トリアムシノロンアセトニド)は、強力な抗炎症作用を持つステロイド製剤ですが、腱断裂のリスクを伴うことが知られています。特に、高用量や繰り返し注射が行われた場合、そのリスクが増大する傾向があります。
先進的治療:
衝撃波治療のような再生医療的アプローチを選ぶことも。
衝撃波治療がテニス肘(外側上顆炎)に有効とされる理由はいくつかあります:
- 炎症の軽減 衝撃波が腱に照射されると、患部の血流が改善されて炎症が緩和されます。
- 組織の修復促進 衝撃波の刺激により、コラーゲン生成が促進されるだけでなく、新しい血管が形成されることで腱や周辺組織の回復を加速させます。
- 痛みの除去 衝撃波の振動が痛みを感知する神経終末に作用し、痛みを軽減します。このメカニズムは、痛みの感覚そのものを一時的に遮断する効果も含まれています。
- 非侵襲的である点 手術や注射療法とは異なり、体外からの治療であるため体への負担が軽いことが魅力的です。

エビデンス
衝撃波治療(ESWT)が慢性的なテニス肘に有効であるとの報告は数多く存在します。国際的な研究レビューやシステマティックレビューによると、保存療法で改善しない慢性痛の緩和や機能回復において有効性が示されています。また、国内外のランダム化比較試験やメタアナリシスでも、衝撃波治療が痛みの軽減や腱の再生促進に寄与するという結果が複数報告されています。特に「組織修復」と「炎症抑制」という観点での成功率が高く、患者の握力向上や日常動作の改善にも良好な効果が確認されています。
手術:
保存的な治療で改善しない場合には、手術を行うこともあります。手術では、損傷した腱を切除したり、腱の付着部を移動させたりすることで、痛みを取り除きます。
テニス肘の予防
テニス肘は再発しやすい病気です。予防するためには、肘に過度な負担をかけないように注意することが必要です。具体的には、以下のような方法があります。
- スポーツや仕事の前後には、肘や腕のストレッチを行う。
- 肘に力を入れる動作をするときは、手首や肩も使って負担を分散させる。
- テニスやゴルフなどのスポーツでは、ラケットやクラブのサイズや重さに注意する。
- パソコンやスマホの使用時間を制限し、休憩を取る。
- 肘に冷湿布やアイシングをする。
- 痛みがひどい場合は、医師に相談し、消炎鎮痛剤や注射などの治療を受ける。
テニス肘は、放置すると慢性化したり、回復が遅くなったりする可能性があります。早めに原因を見つけて対処することが大切です。