野球肩(投球障害肩)
野球肩とは、投球動作によって肩関節や周囲の組織に過度な負荷がかかり、炎症や損傷を引き起こす症状のことです。野球肩は、主に準備期、加速期、減速期の3つのフェーズに分けられ、それぞれに特徴的な障害が起こります。野球肩は、成長期の子どもや若者に多く見られるスポーツ障害です。
稲毛整形外科では、野球肩の診断と治療に力を入れています。当院では、圧迫感や騒音の少ないオープン型MRI装置を完備し、迅速かつ確実な診断を行うことができます。また、千葉大学整形外科関連病院との連携もあり、必要に応じて肩関節鏡検査や手術も行うことができます。
野球肩の治療では、まずは安静にして炎症を抑えることが大切です。その後、理学療法士による運動器リハビリテーション治療を行い、肩関節の可動域や筋力を回復させます。また、投球フォームや筋力バランスの改善など、再発予防の指導も行います。
準備期(ワインドアップからトップ,コッキングまで)
準備期では,上腕骨の軸は肩関節の前方を向いていますが,肩関節の前方部分は骨的な補強が無く,弱い部分となっています.投球動作で上体を速く開いてしまうと,靭帯や筋などの軟部組織が上腕骨頭を受け止めることになり,不安定肩関節症,腱板疎部損傷をひきおこします.
加速期(アクセラレーション)
加速期では肩峰の下で腱板が激しく動くため,インナーマッスルとアウターマッスルのインバランス(バランスの崩れ)により,インピンジメントや肩腱板損傷(腱板断裂)が,問題となります.
減速期(ボールリリース・フォロースルー)
減速期では後方の関節包が引き伸ばされ,後方ベネット病変をおこしたり,関節前方部分では骨同士の衝突で上方関節唇損傷を起こしたりします.
野球肩(投球障害肩)の診断と治療
問診に加え,成長期の野球肩はレントゲンで成長線が壊れていないか確認します.MRIは腱板断裂,関節唇損傷,滑液包炎などの炎症も捉えることができ,有用です.肩関節鏡による検査,手術が必要な場合もあります.
1)肩関節腱板炎・肩峰下滑液包炎
腱板と肩峰(肩甲骨の先端)下面の摩擦を和らげる滑液包が,くりかえされる摩擦で炎症を起こしてきます.
2)肩腱板損傷
上記滑液包炎がその下にある腱板に悪影響を及ぼし,炎症を起こします.腱板の一部である棘下筋はヒンジの役割をするため過大な負担がかかり,損傷していきます.
3)不安定肩関節症
不安定な肩関節を安定させるインナーマッスルのバランスが崩れると関節包の炎症,弛緩を起こします.炎症・弛緩・断裂を起こし,前方あるいは後方への不安定性を招きます. APIT(Anterior Posterior Instability on Throwing Plane)
4)上方関節唇損傷 SLAP損傷
前述のとおり,上腕二頭筋長頭腱にはボールリリース,フォロースルー期において牽引張力が加わり,腱の付着部である上腕二頭筋・関節唇複合体(biceps tendon/labrum complex)が損傷されます.
5)上腕二頭筋長頭腱炎
投球動作の加速期にその肢位と二頭筋の収縮で引き伸ばされ,筋肉を支えている腱に過大な負担がかかります.,ボールリリース,フォロースルー期においても張力が加わり障害を起こします.
6)肩関節窩後方ベネット病変Bennett lesion
加速期における筋収縮,フォロースルー期における牽引張力により上腕三頭筋付着部に骨性増殖がみられます.
7)上腕骨近位骨端線離解・リトルリーグショルダー(Little leaguer’s shoulder)
発育期の上腕骨の成長線は骨より弱く,投球に伴うねじれ,牽引力により破壊されます.
投球数について,日本臨床スポーツ医学会では,小学生,中学生,高校生で段階的に1日50-100球以下,週200-500球までとしています.上図レントゲンは黄矢印部分で骨端線が離れており(骨端線離解は骨折の一種),投球禁止が必要です.
インナーマッスルのチューブトレーニング
腱板(cuff)の筋機能を再教育・改善することを主目的とし,肩関節疾患において一般的な訓練となっています.障害部位に応じたトレーニングと,補助者がタッピングするなど,目的筋に意識をもっていくことが必要です.
- 内旋筋(肩甲下筋)トレーニング 肘90度屈曲位で体幹に固定し,肩関節内旋位からチューブを外側に引っ張ります.
- 外旋筋(棘下筋,小円筋) 上記と反対の動きです.肩関節を外旋させてチューブを内側に引っ張ります.
- 外転筋(棘上筋)トレーニング 立位でチューブを足で固定し,肩関節を外旋させ(親指側を上に向ける),上腕二頭筋の収縮が入らないようにチューブを外側に引っ張ります.
- 外旋筋(棘下筋,小円筋)トレーニング 台などに肘を固定し肩関節を外旋させてチューブを後方に引っ張ります.投球動作と逆の動きです.