膝前十字靱帯損傷でも手術しない選択もあります.前十字靱帯損傷を手術しないとどうなるのか,そして前十字靱帯損傷再建術をしたほうがいい場合について述べます.
スポーツ中のカッティング動作や接触で膝を捻挫した時,前十字靱帯に300kg以上の力がかかると前十字靱帯は切れます.完全断裂の前十字靱帯を内視鏡で見ると,切れた靭帯の断端は関節の中を海藻のようにゆらゆらと漂っています.自然に上のほうにのびて再び300kgの力に耐える靭帯にもどることはあり得ません.もともと張力がかかってぴんと張っていたものなので,切れただけで縮んでしまい,反対側の断端ははるか彼方に漂っています.→詳細は膝前十字靱帯損傷|なおらない理由をご覧ください.
膝前十字靱帯損傷をおこしてしまったら元の状態には戻りません.手術をしないと機能的にも階段の下りで膝がガクッと外れたり,方向転換するときの怖さが残ってしまいます.
では,前十字靱帯損傷でも手術しなくても大丈夫な場合はどんな場合か?
300kgで切れると書きましたが日常生活では前十字靱帯がなくても歩けます.軽いスポーツでも走れます.曲がれます.ただ瞬時の方向転換で筋力で体を支えきれなくなった時だけ前十字靱帯ががんばっていたのがなくなったせいで,自分の意図しないところで膝が外れて痛い思いをします.ですから外れるほど動かない人や,筋力が十分にあって膝を軽く曲げた状態でしっかり踏ん張れる人は膝前十字靱帯損傷で手術しない選択もありでしょう.ただし競技スポーツは除く!です.
高2の夏に前十字靱帯損傷を受傷したバスケ選手.手術するとスポーツ復帰は高3の秋になるので夏のインターハイに間に合わないということで手術しない選択をしました.受傷後1か月ほどで走れる状態になり,6週でスポーツ復帰しました.しかし復帰したとたん膝が外れそうになり,それ以来テーピングが手放せない状態.それでも筋力訓練やアジリティトレーニングをしっかりやって高3の夏までバスケを続けることができました.
本人は最後まで大会に出たことで満足していましたが,1年前切れていなかった半月板が切れかけていました.秋に前十字靱帯再建手術予定ですが半月板縫合術も追加になってしまいました.先のことはわかりませんが,軟骨も結構ダメージあったのではないかと思います.この先手術しなければ変形性関節症必発だろうと思います.
たまに手術しないで放置してしまった患者さんも見かけますが,おそらく切れた前十字靱帯の断端が後十字靱帯や大腿骨側の滑膜などに癒着して治っている状態とおもわれます.どの切れ方ならなおって症状が出ないかというのはまだわかっていませんが,不全断裂なら手術しない選択もあるのかもしれません.たまたま症状が出ないだけでゆるいまま何とかなっている人もいるようですが,基本的には前十字靱帯損傷で完全断裂なら手術したほうがよさそうです.