肩甲上神経麻痺

肩甲上神経麻痺

肩関節不安定症(ルーズショルダー) レントゲン画像

肩甲上神経麻痺とは、肩甲上神経という神経が圧迫されたり損傷したりすることで、肩や上腕の筋力低下や感覚障害を引き起こす症状です。腕が水平以上あげられないが痛みはなく,四十肩,五十肩と診断され,長い間治らない患者さんの中に,肩甲上神経麻痺が見逃されていることがあります.野球選手に見られる,肩関節不安定症(ルーズショルダー)の原因になることもあります.

腕が水平以上あげられないが,痛みがないところが四十肩・五十肩などと鑑別できる点ですが,整形外科専門医の診断が必要です.肩甲上神経麻痺を疑われる患者さんにはMRI検査による肩周辺部のガングリオン,腫瘍などの圧迫病変の検索,筋電図による筋・神経障害の有無を判定します.

肩甲上神経麻痺の症状

肩甲上神経麻痺の症状は腕を水平以上あげようとしても力が入らない状態が続きます.反対の手で持ち上げてあげれば,肩腱板断裂と同様,肩が上がるので肩関節周囲炎とは区別されます.いわゆる四十肩・五十肩と診断され,長い間治らない患者さんの中に,肩甲上神経麻痺が見逃されていることがあります.おもな症状を列記すると下記のとおりです。

  • 肩甲骨が背中から突き出して「翼状肩甲骨」と呼ばれる形になる
  • 肩や腕を上げたり回したりすることが困難になる
  • 肩や腕に力が入らなくなる
  • 肩や腕にしびれや痛みが生じる

肩甲上神経麻痺は急性に発症することもありますが,多くは慢性化しており,バレーボール,テニスなど肩を振り回す頻回な力が掛かる人に多く発生します.肩が水平以上,上がらなくなりスポーツ活動に支障をきたします.ある日突然,肩が上がらなくなった場合は,脳梗塞などの一過性麻痺も含め,専門医を受診することが必要です.

肩甲上神経麻痺の原因と病態

肩甲上神経は棘上筋と棘下筋を支配している神経で、頸髄の第五・第六・第七頚神経から分岐し、鎖骨の下を通って甲骨の上の方にある肩甲切痕という骨の溝をすり抜けるようにして、肩甲骨の上にある筋肉(僧帽筋や菱形筋)や上腕の筋肉(三角筋や上腕二頭筋)に分布しています。その部分の走行に無理があるので肩甲切痕部で圧迫を受けて麻痺を起こすことが有ります.

この神経が圧迫される原因としては、以下のようなものがあります。

  • 首や肩の外傷や手術による神経損傷
  • 首や肩の長時間の不自然な姿勢や過度な運動による神経伸展
  • 頸椎症や頸椎ヘルニアによる神経圧迫
  • 胸郭出口症候群による神経圧迫
  • 腫瘍や嚢胞などの異物による神経圧迫
  • 糖尿病やアルコール依存症などの全身性疾患による神経障害

肩甲上神絗麻痺の病態としては、以下のようなものがあります。

  • 肩甲骨の筋力低下により、肩甲骨が外側に突き出す「翼状肩甲骨」という形態異常を起こすことが多いです。これは、腕を前方に挙げると特に目立ちます。
  • 上腕の筋力低下により、腕を挙げたり曲げたりする動作が困難になります。特に、三角筋が麻痺すると、腕を水平以上に挙げることができません。
  • 肩や上腕の感覚障害により、しびれや痛みを感じたり、冷たさや温かさを感じにくくなったりします。特に、上腕外側部分の感覚が低下することが多いです。

肩甲上神経麻痺は、原因に応じて治療法が異なります。一般的には、保存的治療としては、安静・冷却・消炎・鎮痛・理学療法などが行われます。また、手術的治療としては、神経解放術や神経移植術などが行われます。予後は個人差がありますが、早期発見・早期治療が重要です。

肩甲上神経麻痺の診断と治療

肩甲上神経麻痺の診断は、主に問診や視診、触診、筋力検査などで行われます。また、神経伝導速度検査や電気筋力図検査などで神経の機能を評価したり、レントゲンやMRIなどで神経を圧迫するような構造的異常を調べたりすることもあります。

肩甲上神経麻痺の治療は、原因に応じて異なりますが、一般的には保存的治療と手術的治療があります。保存的治療では、以下のような方法が用いられます。

  • 神経を圧迫する原因となる姿勢や動作を避ける
  • 神経を保護するために固定具やサポーターを使用する
  • 神経を刺激するために電気治療や温熱治療を行う
  • 筋力低下や可動域制限を改善するために筋萎縮を防ぐEMSという電気治療を主体とする運動器リハビリテーションを行う
  • 難治例に対して肩甲切痕部へのブロック療法を行う

保存療法の無効例は手術的に肩甲切痕を広げる手術を行うこともあります.

回復までには6ヶ月から1年という長期間を覚悟することがあります.