過呼吸症候群

過呼吸発作を起こしたときの処置は,呼吸をとめて二酸化炭素CO2を増やす方向への処置なので,酸欠で息苦しい場合はさらに悪化させてしまいます.
まず,過呼吸発作であることを見極めなくてはなりません.発作歴のある選手は指導者とコミュニケーションをとり,病歴を申告することが必要ですし,指導者も過呼吸発作歴だけでなく,選手の病歴をすべて把握しておくことが必要です.

過呼吸症候群の概念

過呼吸とは,安静にしている状態で運動時と同じように深くて速い呼吸をする状態で,いろいろな器質的疾患によっても引き起こされるが,器質的疾患によらず心理的要因を背景に誘発される場合を過呼吸症候群と呼ぶ.呼吸器系の心身症に分類され,10歳代,20歳代の心理的,情緒的原因を抱えている女性に多く発症する(男女比は1:2~6).
運動選手においてスポーツ活動が過大なストレスとなり,心身の適応が破綻しさまざまな身体的症状を呈することがある.その一つの症状として過呼吸症候群がある.本症状では発作的に過呼吸状態となり,自らの意志でそれを止めることはできずに持続する.過剰な換気が続くと,二酸化炭素の排出が多くなりすぎて動脈血中の二酸化炭素が減少し,筋肉のこわばりなどアルカローシスの症状も伴う.それらの症状が,不安,緊張をさらに強め,さらに過呼吸を増長させ悪循環を形成する.本症候群は練習中にも,競技中にも出現することがある.競技においては特に劣勢の状態で起こしやすい傾向にあり,何とか勝たなければいけないという精神的なストレスや,そのような精神状態による強度の高い運動により過呼吸発作が引き起こされると考えられる.

過呼吸症候群の症状

呼吸器症状では,「息苦しい,空気が十分の吸えない」などと感じ,次第に「深くて速い呼吸」が現れる.循環器症状では「動悸,胸の締付けられる感じや圧迫感,胸痛」などが起こることが多く,頻脈がみられる.発作時にはこの様な症状から始まり,さらに「手足の先や顔,唇の周りの痺れ感,手足の突っ張る感じや硬直」などが現れ,痙攣発作を起こすことがある.「めまい,失神,頭のぼんやりした感じ」などが起こり,意識消失することもある.消化器症状では,「食欲不振,腹痛,悪心」などがある.不安感,恐怖感はほとんどの患者に見られる.

過呼吸症候群の治療

本症候群の根底には不安定な情動があるので,不安の除去が重要である.生命に危険のないこと,機能的疾患であることを説明する.発作時には混乱してパニック状態になりがちなので落ち着かせ,ゆっくり呼吸するようにさせる.鼻からゆっくり吸って,口から吐くようにさせるとよい.改善のない場合は,紙袋を口と鼻に当てて,呼気の混じったガスを吸入させる(紙袋再呼吸法).呼吸中の二酸化炭素ガスを吸入させることにより,呼吸性アルカローシスを是正する.これでも改善しない場合は,血圧などのバイタルサインをチェックしながら鎮静剤をしようして発作を鎮める.
症状が落ち着いてきたら,器質的疾患ではなく,発作が起こっても制御できることを説明する.病態について十分に理解してもらうことは,不安感を取り除き,再発を防ぐ意味でも大切である.選手本人の治療のみではなく,学校生活や家庭環境など選手の置かれている状況の改善,練習や競技日程の調整,指導者やチームメイトとの対人関係の改善なども有効な場合がある.運動する環境の調整,指導者への指示,メンタルトレーニングなどにより,発作を引き起こしやすい状況を断ち切るような対策を立てることが大切である.