膝前十字靱帯損傷|なおらない理由

膝前十字靭帯は.関節内靭帯といって関節液で満たされた関節腔という空間にあるため,血流に乏しく,関節内にある軟骨や半月板と同じく,非常に治りにくい組織です.

血流に乏しく,自然治癒が期待しにくいことに加えて,前十字靱帯は大腿骨と脛骨をつなぐ硬い紐のような構造で,上下に張力がかかっているため,損傷すると組織の連続性がたたれ,完全断裂では右図MRのように垂れ下がった状態となっており,アサガオのつるのように上に延びていくわけではなく,自然治癒することはありません.

膝前十字靭帯損傷では靭帯が伸びているといわれて来院するケースも少なくありませんが,伸びた靭帯がゴムのように縮むわけではありません.詳しくはスポーツ外傷・障害の診断と治療-総論 靱帯損傷のページもあわせてご参照ください.

膝前十字靭帯不全断裂+内側半月板損傷 ドクターストップ

40代のアスリート 先月,膝を捻り,MRIで前十字靭帯不全断裂+内側半月板損傷.プロではないが来月1年間目標にしてきた試合がある.試合には入場料を払って見に来てくれる人もいる.

前十字靭帯不全断裂 前十字靭帯は半分ぐらい残っており(前十字靭帯不全断裂),日常生活には支障がない程度に回復するレベルだが,万が一,再度,膝を捻挫すると,完全断裂になり,半月板や軟骨まで,回復不能なダメージを受ける可能性が高い.

内側半月板損傷は大事な後ろ側が切れており,今でも,長時間運動すると,必ず痛みが出る.

手術をしないで試合をする選択をしたが,試合後に悪化して手術というパターンは避けたい. 内側半月板だけ,事前に手術(内側半月板損傷部分切除術)をすれば,痛みは取れるが,前十字靭帯損傷による膝が外れる感じが顕著になる恐れがある.前十字靭帯不全断裂では,リハビリを行い,筋力をつけることで,回復する可能性がある.  足がちぎれても試合に出るというのであれば,止められないが,今の時点で,手術するしないにかかわらず,治る可能性が高ければ,ドクターストップをかけるべきだと思います.

 

ライセンス藤原、大けが!

 お笑いコンビ、ライセンスの藤原一裕(33)がテレビ東京系バラエティー「ヤンヤンJUMP」(土曜後6・30)の収録で,5人対5人のハンドボールを基にした番組オリジナルの球技試合中、ジャンプしてシュートを放った後、着地した際に左ひざを床に強く打ち付け受傷。

 膝前十字靭帯は太ももとすねの骨をつないでいる膝関節の4本の靭帯のひとつで,前後に骨がずれるのを抑制しているだけでなく,方向転換の際,太ももの力をすねに伝える重要な役割を果たしています.

 通常,膝を地面に打ち付けた場合は後十字靭帯断裂を起こします.その前に軸足として強く捻ると前十字靭帯が断裂するので,おそらくシュートの方向転換の際捻ったか,着地でバランスを崩して捻りながら着地したものと推定されます.

 全治6ヶ月と報道されていますが,痛みは1~2週間でなくなり,膝にたまった血も吸収してくれば,日常生活はテーピング程度で,杖も不要となります.いったん断裂した前十時靭帯はヒザ関節の中をアサガオのツルのようにのびてつながるわけではないので,完全断裂の場合は自然に治ることはなく,手術が必要となります.

 入院は1ヶ月,リハビリを含めて6ヶ月以上を要しますが,スポーツ選手のようにスポーツ復帰を急がない緊急性の少ない場合は,後日,夏休みなどを利用して入院ということも可能です.手術までの間はさらなる損傷(特に半月板の損傷を合併しないよう)を避けるため,スポーツは控えていただきますが,通常通り日常生活は可能です.

 詳細は前十字靭帯損傷をご参照ください.

膝の水を抜くとくせになる?|膝関節水腫

どこの誰が言い出したのか?

膝の水を抜くとくせになる?

診察でも,患者さんによく聞かれます.
答えは,Yesでもあり,Noでもあります.

膝のスポーツ外傷で半月板や靭帯を損傷した際にたまった水(関節液)は,膝に水がたまる原因(膝軟骨損傷や,膝靭帯損傷,膝半月板損傷)が軽度であれば,受傷後早期に抜いてあげると,膝の可動域(曲がり)が保たれ,その後のリハビリが早く,早期スポーツ復帰が可能となります.

しかし,膝に水がたまる原因(膝軟骨損傷や,膝靭帯損傷,膝半月板損傷)が治らないまま無理な運動をすると,漫性滑膜炎をおこし,再度水がたまり,水を抜いたら動けるようになり,膝に水がたまり,また水を抜く.という悪循環におちいります.

1週間前,スポーツで膝を捻挫して膝に水がたまって,膝が曲がらなくなった学生

前十字靭帯損傷 初診時は1人で来院,強硬に注射を嫌がったので,MRIを予約して,アイシングとテーピング.今日はお母さんと来院され,MRI検査の結果,前十字靭帯不全損傷.

1週間経っても,膝に水がたまった状態で,膝が30度も曲がらない.お母さんにも説得してもらい,半ば強制的に関節穿刺(膝に針を刺してたまった水を抜く処置)! 注射針を刺す間,おなかをつねると痛くないよ.といって,膝の水を抜いたところ,すぐに膝が90度楽に曲がるようになり,本人も喜んでくれました.
膝の水を抜いている間,おなかがつまめないといいながら泣いていましたが,何とか手元だけはぶれずに膝の水を30cc抜くことができました.(正常値は多くても2-3cc)

 
私の腹も,つまめないけど,皆さんは大丈夫?

膝軟骨損傷

 軟骨損傷は成長期では単独で起こることが多く、離断性骨軟骨炎といわれます。

 骨成熟後は靱帯損傷に伴って軟骨損傷を起こしていることが多く、さらに靱帯損傷受傷時は軟骨損傷を起こしていなくても、使っているうちに二次性の軟骨損傷を引き起こします。前十字靭帯損傷を放置して、激しい運動をしていると、1年以内に90%以上が、半月板損傷や軟骨損傷を起こすことが知られています。

 前十字靭帯再建術後のスポーツ復帰時期は昔より早くなりましたが、それでも半年以上かかります。手術方法やリハビリの理論は進歩しましたが、傷の治る時間は何も変わっていません。切り傷が半日で治らないのと同じく、再建した靱帯が骨と固着して、自分の膝になじむまでに3-6ヶ月はどうしても必要です。(私の博士論文の研究テーマでした)

 ウッズは左膝の損傷した軟骨を取り除く関節鏡視下手術を4月に受けたばかり。その間の厳しいリハビリで脛骨を疲労骨折していた事が今期欠場の最終決定打になったものと思われます。